夜が明け、平和な朝がやってきた。

バチィ―――ンッ

その音は余韻を残して家に響きわたる。
ジャックの母が、ジャックの頬をはたいたのだ。

「ルーガルーと戦っただって!!? どうしてそんな危ないことしたんだい!!!」

「ちょ…ちょっとまつっス母ちゃん!! ギンタ達の力を借りてあいつら倒したっス!!
 あいつ、泣きながら逃げてったスよ。 これで安心―――」

「死んでたかもしれないんだよ―――っ!! この………」

次に来る衝撃に目をつぶるジャック。
しかし、いつまでたっても痛みは来ず。 代わりに降って来たのは、温もり。
目を開ければ、母が自分を抱きしめていた。

「生きててよかったよォ……ジャック………」

「心配させてごめんよ…母ちゃん」

ジャックは母親を抱きしめ返した。
そんな家族の光景を微笑んで見ているギンタ。

は彼の表情がその後曇ったのを見逃さなかった。
彼は自分の世界にいる母親のことを思い出したのだ。



「おいギンタ! お――い!」

ギンタととバッボは畑の横に座っていた。
バッボがさっきからギンタを呼んでいるが、彼はぼーっとしたまま無反応だ。

「……………バッ「返事せんかバカ者!!」

がバッボに声をかけるより早く、痺れを切らしたバッボがギンタの後頭部に思いっきり体当たりをかます。
ゴチ――ン、と とても重い音がする。

「いつものアホ元気はどうしたのだ? ホレ! かかってこんかっ」

「…………うん…」

「……………」

返ってきたのは生返事のみ。
相当強い衝撃だったはずだが、後頭部を擦っただけで相変わらず他はなんの反応も無い。
いつものギンタだったら、バッボと取っ組み合いを始めているだろう。
バッボはとてもつまんない、という顔をしたが、
すぐに目をキリッと変えて、野菜畑の方へと跳ねて行く。

「おーいギンタ―――っ。 大変だ、こっち見てくれーっ」

その声に、今度は何だと、1人が振り返った。

「ワシに子供が出来た!!!」

は一瞬寒い顔をした。

「なーんちゃってな!! だーはっはっはっはっは ユーモアセンス大バクハツ!!」

ギンタを笑わせようとしてやった自分のギャグに大ウケしている、
そんなバッボの方に向きもしないギンタ。

「………バッボ、男じゃん」

彼の静かなツッコミに衝撃を受けたバッボであった。




――――ジャックは私のたった一人の肉親だからね

――――死んでたかもしれないんだよ!!

――――生きててよかった…………

――――心配させてごめんよ  母ちゃん

ギンタの脳裏に浮かぶのは自分の母の姿。
ジャックと母親の会話が頭の中で繰り返される。
それはも同じだった。
自分のことがわからない。 どこで育ってきたのか、生まれたのか、自分の親が誰なのか。
そんな自分を温かく受け入れて、育ててくれた人。 にとって、ギンタの母は実の母親同然なのだ。

「ここにいたんスね、ギンタ、! メシの準備…………どうかしたんスか?」

食事が出来たと呼びに来たジャックだったが、2人の様子が違うことに気がついた。




「……信じられないっス!! じゃあギンタ達は…本っ当に違う世界から来た人間だったんスね?」

「うん。」

「その世界とこことはどこが違うっスか!?」

自分の世界の話をし始めたギンタは、不思議な気分になった。
元の世界では夢の国の話を小雪にたくさん聞かせていたように、
憧れの世界に来たら、元の世界の話を同じようにジャックに聞かせているのだ。

「異界の人かっスゴイっス!! どうやってここへ!?」

「……扉入った」

「何の扉?」

「それがわからないんだ」

「その扉は今ドコ?」

「しらない」

ジャックとバッボは お互い目を合わせる。

「ARMっスね」

ジャックが答え、説明を始めた。

「オイラ、田舎者だからよくは知らないスけど…ARMにはいろんな種類があるんス。
 武器に変化する”ウェポン”!
 守護者を呼び出す”ガーディアン”!
 他にも―――違う所に出たり入ったり移動できる…”ディメンション”!!!
 海を挟んだ地にもワープできるらしいっス。
 ギンタ達はそれ系の強力なヤツでこの世界にワープしたんスよ!!」

「まったく! 迎えに行ったジャックまで来ない!!
 ギンタちゃんとちゃんに暖かいスープ飲ませてあげたいのに…」

なかなか家に戻ってこない3人を呼びに、ジャックの母が歩いてきた。
が、ギンタの声が聞こえ、足を止める。

「オレさぁ…ここみたいな世界にすごく憧れていたんだ。 ワクワクした気持ちだけでここに来た。」

は彼の言葉を聞きながらうなずく。

「すげえ楽しいし嬉しいけど――――
 俺達二人とも、母ちゃんに何も言わねえで来ちまった。 心配させちまってるよな?」

そう言ったギンタの顔はとても寂しそうだった。

「ジャックとジャックの母ちゃん見てて…気づいた!」

ジャックの母は木の陰から見守る。

「オレここが大好きだ! でもずっといる訳にはいかない!
 心配させてるヤツ! 待たせてるヤツ! 会いたいヤツがいるんだ」

クラスメイト。 先生。 小雪。 母ちゃん。

「だから… オレはこの世界を歩き回るぞ!!! 元の世界に戻るARMを探す旅だ!!!」

拳を握る、いつもの前向きなギンタ。

「…その意気だね、ギンタ」

「面白そうじゃな! ワシも忘れた記憶を取り戻したいところだ!! 改めてお供する事を許すぞギンタ!!!」

「わ―――い。 じゃねえぞ!! 何だよ、その言い方は!!」

「おお!! コレじゃコレ!! このリアクションを待っとったぞ―――っ!!!」

ギンタとバッボの、いつもの取っ組み合いが始まった。




「おお!! うおぉおおお!!!!」

食事も食べ終わり、いよいよ旅へと出発する2人と1つ。
ギンタはジャックの母からもらった服を着ている。

「かっこいいよ おばさん!! もらっていいの!?」

「ジャックのおさがりだけどね! それと、ちゃんは、これ。」

に渡されたのはこの世界のお金、ピューター。

「町へ行ったら、これで服を買いなさい」

「え? そんな、僕もおさがりで大丈夫ですよ」

断ると、ジャックの母は笑った。

「女の子にジャックのおさがりを着せる訳にはいかないよ」

ギンタとはもちろん、が女の子だと初めて知ったジャックも驚いた。
が女の子ということも、それを隠していることも、ジャックの母は最初から気づいていたらしい。

「だから、ね」

「ここ数日間何もかも……本当にありがとうございます」

はお辞儀をする。

「気にしなくていいのよ。 もう少しゆっくりしてったらよかったのにねぇ… それから―――」

ジャックの母は笑顔を浮かべる。

「ジャックももっておいき!!」

母の言葉に目を点にするジャック。

「な、何言ってんスか母ちゃん!? 畑仕事が……」

「なめんな!! あんた いなくて困る私じゃないよ!! 心配されるほど年じゃあない!!
 ギンタちゃんやちゃんが私達を助けてくれたように… お前もギンタちゃんを助けるんだ!!」


ただし――少しでも早く母ちゃんを安心させてくれ
子供の心配をしない親なんていないんだ
必ず 元気で帰るんだよ



ギンタ、、バッボ、ジャックがジャックの母に別れを告げて旅立った頃。
黒ずくめの男 ―― ペタは、暗い部屋にいた。

「…ディメンションARM……”魔法の鏡の指輪(マジックミラーリング)”!!」

薄暗く光る水晶玉がのった柱がなしている円の中心で、右手の人差し指にはめている指輪の力を発動する。

「今から盗賊ギルドに属する全ての者にこの姿を見せる。
 これを奪い手に入れよ!! 持ち主は殺しても構わない」

鏡、水晶玉、湧き水。
指輪が光ると、世界各地の盗賊が持っている様々な媒体に、映像が送られた。
その映像は、昨夜のもの。

「生きているウェポンARM ”バッボ” だ」

――――報酬は一億ピューター! 一生遊んで暮らせる額だ。

――――  手に入れろ!! バッボを!!!



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・・後書き・
というわけで、1巻が終わりました(遅
そして前回更新から1年近く。 お待たせしました…!

いろんなルートで回って迷いに迷ってこんな流れに落ち着きました;
(また)書き終わった今思ったのですが、ジャックのおさがりって、ノースリーブ&裾ぽったりズボンが多そうですよね。
着れるのかヒロイン!(笑)

次はヒロイン別行動。の予定。

2010 / 3 / 15 UP