「よかったね。 トライピオのブレーダーの人、2~3日寝てればよくなるって」

リョウとは帰りに、トライピオのブレーダーが運ばれた病院に寄り、容態をうかがった。
自宅――マンションについたのは夕食前。
いつもより遅い帰りだったが、母は優しく一言注意しただけでそれ以上は何も言わなかった。
夕食も食べ終え、今はリョウの部屋に2人はいる。

『しかし”邪悪”め! オレ達の神聖獣界と乗っ取るとは許せない!!』

『一刻でも早く、取り戻さねば』

リョウはベッドの上に、は床に、
それぞれスタジアムを置きベイブレードを回しているので、ドラグーンとガルオンは実体化している。
ただ、2匹は戦闘の時よりは背が小さく、リョウと同じくらいの高さだ。

「神聖獣界って?」 「どんなところなの?」

『光あふれ、平和で美しい聖獣達の故郷だ。 そこは光の生命体の聖獣達がたくさん暮らしている』

「まるで夢の世界みたいだね」

『そしてドランザー、ドライガー、ドラシェル…
 この3人はオレの兄貴分みたいな聖獣なんだ! 優しくて、かっこよくて、強いんだぜ!!』

問うリョウとに、ガルオンとドラグーンが説明をする。

「わーっ、すごいや! 四聖獣って本当にいるんだ! 会いたい! 会わせてくれよー!!」

リョウが目を輝かせるが、とたんにドラグーンは困った顔をする。

『だめだよリョウ…オレだって、早く帰って兄貴達に会いたい!!
 兄貴達と約束した”邪悪”を倒す力だって、もう手に入れたんだ!
 でも…、帰れない。 帰り方がわからないんだ。
 そのうえ、”邪悪”はオレの力を恐れて、トライピオにそうしたように、聖獣を操ってオレを狙ってくるに違いない…。
 そして、オレだけじゃなくて……』

『ドラグーン、今はいい。 ”邪悪”が気づいていればの話だ』

『でも…』

「?」

ドラグーンの話を止めたガルオンの発言に、リョウは疑問符を浮かべるが。

「あの時の私の事、だよね」

『……』

が聞いたので、ガルオンは驚き戸惑った。

「覚悟はできてる。 私は、大丈夫だから」

『(”あなた”が選んだ訳か)……いいんだな』

今から自分達が告げようとしていることは8歳の少女には重いと思って止めたのだ。
言葉とは裏腹にかすかに震えているが、それでもは迷いの無い目でガルオンを見つめ頷いた。
少し間をおいてから、ガルオンが話し始めた。

は…神聖獣界の”光神”、つまりは”邪悪”とは対極の存在であり、”邪悪”にとって恐れる敵の1つ。
 ”邪悪”は、自分を倒すことができる体をもった四聖獣と光神を始末しに来るだろう』

『だから、オレ達は2人を危険な目には…』

「大丈夫! そんな悲しい顔をするなよ!」

リョウが胸をドンと叩く。

「オレが力になるよ! も守る!

 一緒に戦うし、一緒に帰り方を見つけよう! オレ達友達だろ! 友達!」

「…私も力になる。 ”邪悪”に対抗できるなら、なお更。 それに、ガルオンがいれば安心だよ」

…』

『(友達…)ありがとう、リョウ、!』

―――――――君達の力を借りよう。 そして…早く帰らねばならない…神聖獣界へ!





次の日の放課後。
毎日の光景。 屋上では生徒達の白熱したベイバトルが繰り広げられていた。
その中には、リョウとの姿も。
リョウのドラグーンが相手のベイブレードをスタジアム外へはじき出す。

「やったーっ、10連勝!!」

「うへぇ~、竜宮強え~」 「昨日とは だんち だ」 「一体何がどうなっちゃたんだ?」

昨日は自滅していたのに。
信じられない、という顔をするクラスメイト達の前で、えへん、と得意げにするリョウ。

「調子に乗りすぎ、リョウ兄」

「これもドラグーンの力だよな?」

『オレの力じゃない。 オレは遊びでは力を使わない。 リョウの力さ』

「え、そうなの?」

リョウは小声でドラグーンと会話をしている。

「「何コソコソしてんだよ」」

「別にー」

ドラグーン達聖獣の声は、リョウや、聖獣を宿したベイブレードのブレーダーにしか聞えない。
傍から見れば独り言を言っているように見えるのである。

は参加しないのか?』

ガルオンはそんなやり取りを横目で見ていたが、
放課後になってからずっとフェンスにもたれかかっているを疑問に思い、尋ねた。

「うん? 今日はたまたま相手がいないだけで、バトルはするよ。 …最近は時々すごく強い人も来るけど」

『何故だ?』

「私が学校のトップもらっちゃったからとか何とか」

『と、トップ…?』

「うん。 バトルしてたらいつの間にか。 いろんな人とのバトル、楽しいよ!」

は微笑んで答え、
リョウへの挑戦権をめぐって勝負を始める生徒達の方を見てから、真剣な表情に変わった。

「……でも、これからの戦いは、今やってるバトルのようにはいかないってわかった」

「どけどけ―――!!!」

突然、赤いベイブレードが先ほどの生徒達のスタジアムの中へとび込んできた。

「ああっ!」 「ベイブレードがバラバラだあ!」 「だ…誰だ?!」

「弱え弱え。 ハハハッ、オレの”ガルズリー”に敵う奴はいねえな!」

ヌウ、とベイブレード”ガルズリー”をシュートしたブレーダーが現れた。

「わあ! 六年の熊蔵だーっ!!」 「逃げろ!」

熊蔵と呼ばれた少年は少しずんぐりした体型で、立ち方から姿までまさに”ガキ大将”。
校舎の中へ逃げていく生徒達を見て「ガハハッ」と笑っている。

『リョウ、見えるか』 「うん」

「来たね、”邪悪”の手下」 『ああ』

熊蔵の目は、昨日の少年と同じく、白目の部分が赤茶で、瞳が黄色だった。
そして、ベイブレードから熊の聖獣”ガルズリー”が出ている。

『ほう、見えてるな小僧共! ならばそのドラグーンを出せ!』

「ドラグーンか…オレとバトルしようぜ、小僧」

リョウはつばを飲む。

「オレとバトルして勝てたら、帰る方法を教えてやるぜ!」

『何っ?!』

相手の思いもしなかった言葉に、ドラグーンは即座に反応する。

(帰る……ドラグーンが帰る方法……?)

『よし、やろう!』 「ま、待ってよ、ドラグーン」

「決まったぜ、バトルだ! ぶっ潰してやるぜ!!」

『さあ、来い! ドラグーン!! (あのお方のために、始末してやるぜ! ドラグーン!)』

熊蔵がベイブレードをシュートし、ガルズリーがするどい大きな爪を構える。
リョウはというと、シューターを構えたままだった。

「早く回せ! 小僧!!」

「でも…」 

すごい剣幕で怒鳴る熊蔵の言葉が、リョウを焦らせる。

『リョウ、何をしている。 友達だろう。 回してくれ!』

(どうしよう…勝ったら、ドラグーンはもう帰っちゃうんだ…)

『友達じゃなかったのか? リョウ! オレに力を!!』

(リョウ兄、迷ってる…まだ離れたくないんだ…)

は兄の様子を見て、敵に悟られないよう静かにガルオンをシューターにセットする。
その時のガルオンを握る彼女の手は震えていた。

(わがままになっちゃうけど、私も本当は…ガルオンともう少し一緒にいたい…)

…?』

リョウは歯を食いしばる。 額には大量の汗。 ワインダーを握る手が震えている。

『リョウ!』

「…っ友達だよ。 そうさ、友達だよ! オレ達ーっ!!」

『いくぞ、ガルズリー!!』

勢い良く、ドラグーンをシュートした。
実体化したドラグーンは待っていたと言わんばかりにガルズリー目がけて突っ込んでいく。

『ガルズリー剛腕爆流破(ベアバースト)!!』

しかし、ドラグーンがガルズリーにダメージを与える前にガルズリーの爪の拳が炸裂し、ドラグーンははじき飛ばされる。

(どうしたんだ? 力が半分も出ないぞ…)

「ご、ごめんドラグーン。
 オレ上手く回せなかった…迷っちゃって…力いっぱい回せなかった…」

リョウは震えで少しよろめく。 目には大粒の涙。

『ハハハッ、弱っちい奴に回されたとは。 運の無い奴め!』

『だまれ! リョウは弱くない! 勇気あるオレの友達だ!!』

ドラグーンはガルズリーの猛攻撃を防ぎ続ける。

(くっ…しかし半分しか力が出ていないのに、どうやって勝てばいい?)

はガルオンをシュートしようとワインダーに手をかけた瞬間。

―――――― お前は今戦うな!

頭に響いた声の言葉に、は素直に手を止めた。

『どうした!? 早くしなければドラグーンが 「来、る」

『来るとは、一体誰が…』

『とどめだ!!』

(やられる!)

ドラグーンは目をギュッとつむった。
…が、自分を襲ったのは衝撃ではなく、目の前を何かがすばやく通った風。
目を開けると見えたのは、その風にそって残る白い光の軌道だった。
その光の軌道の先はガルズリーを襲い、スタッと綺麗に地に着地する。
ガルズリーが白目をむいて倒れた。

(ど、ドライガー…!!?)

ドラグーンは目を丸くする。
その光の正体は、ドラグーンの兄貴分の1人、”白虎”のドライガーだった。


倒れていたガルズリーはベイブレードに戻り、ブレーダーの熊蔵は邪悪の支配力が抜け、気を失った。

『眠りについたか、ガルズリー』

『ドライガー!! 無事だったのか!!
 今あっち(神聖獣界)はどうなっているんだ? 早く一緒に帰って…』

兄貴分との再開に目を輝かせるドラグーン。

「弱いね、ドラグーン」

クスクス、と笑い声が聞えたと思うと、ドライガーの隣には1人の少年がいた。
髪は銀色で腰あたりの長さで、横が猫の耳のように立っているのが特徴的だ。

『え?』 「誰だ、お前は!?」 (あれ、この人どこかで…)

『虎牙(こが)ミトラ。 1つ忠告しておくよ、ドラグーン。
 今の君と、そのブレーダーでは…勝てないよ。 永遠にね!』



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・・後書き・
夢主の謎、早くも解いてしまいました。 私の夢主の中で、光の力を持っている内1人がこの夢主です。
それにしてもやっぱり小2と考えると少し大人なような…脳内で中・高学年に変えて頂いてもOKです(いいのか
そして実は最強という(笑)
次回は途中でオリジナル話入るかな? 予定。(未定/殴

2009 / 1 / 12 UP