私の幸せは、どこにありますか?






小学六年生の私はいつも河原で一人泣いていた。



原因は毎日絶えない両親の喧嘩。

お父さんの怒鳴り散らすような声とお母さんのヒステリックな泣き声に壊れていく食器や花瓶や皆の思い出の品々。



息苦しい家が嫌で嫌で、私は逃げ出すようにいつも河原で泣いていた。



『ヒッ…うっく…。』



いっそのこと、離婚してしまえばいい。こんなことがいつまでも続くならお父さんとお母さんが離婚しちゃえ!



『うっ…ひっく…。』



ボロボロと涙を流した。泣くことに一生懸命だったからか、人が近づいて来てたことに気付かなかった。



「なぁ、大丈夫か?」



『ふぇ…?』



声が聞こえて顔を上げるとそこには野球の格好をした男の子がいた。



「何で泣いてんだ?どこか痛いのか?」



男の子はしゃがんで私と目線を合わせ、心配をしてくれている。



『だい、じょうぶ…。』



「そうか?なんか苦しそうだぜ?」



『……何で分かるの?』



「んー、なんとなく。」



なんとなくって…変なの。



「オレ、山本武。お前は?」



…。』



な!オレのことは武で良いぜ。」



ニカッと武くんは笑った。なんだかそれは太陽みたいにポカポカとした笑顔だった。



「なぁ、何ではココで泣いてんだ?」



『……誰にも言わない?』



「言わねぇよ。」



『……内緒だよ?』



「おう!これでもオレ、口は固いんだぜ。」



「だから大丈夫だ!」と武くんはまた太陽みたいな笑顔で笑う。



『うん、あのね…。』



私はお父さんとお母さんの喧嘩のことについて話した。武くんは話してる間ずっと真剣な顔で聞いてくれていた。



『お父さんとお母さん、いつまで喧嘩を続けるんだろ…。』



「んー、多分さ仲が良いからケンカするんだと思うぜ。」



『仲が良いから?悪いからじゃなくて?』



「ほら、よく言うだろ。ケンカするほど仲が良いって。」



『そうとも言うけど…。』



そうなのだろうか?でも、確かに昔は仲が良かった。もしかしたら、仲が良いから喧嘩をしているのかな…?



「だろ?だから大丈夫だって!の父さんと母さんもその内喧嘩なんかしなくなるぜ。」



『……うん、そうだよね!』



武くんの話で元気が出てきた私は自然に笑顔になった。



「やっと笑ったな!は笑顔の方が良いぜ。」



武くんも負けじとニコッと笑う。



『武くんも笑ってた方がかっこ良い!』



「そうかー?じゃあオレ沢山笑っとこ!」



『アハハハッ!』



武くんと私は大きな声で笑った。それがとても気持ち良くて、今までの嫌な気持ちが吹っ飛んでいったみたいだった。



それから私は毎日武くんと河原で会って野球を教えてもらった。

私の投げる球やバットの振り方は武くんに比べるとヘロヘロだったけど、武くんは筋が良いって誉めてくれた。



相変わらずお父さんとお母さんはケンカをしていたけど武くんと会っている時は嫌な気持ちを忘れることが出来た。

そして、武くんといる時が一番楽しくて笑顔でいられた。



『武くーん!いくよー。』



えいっ、とボールを投げると速くはないが真っ直ぐ武くんの所に落ちていく。

武くんはボールをしっかり見ながらバットを構えるとカキンッとボールを打って私の真上に飛んでいった。



『武くん凄いね!この前よりボールが遠くに飛んでるよ!』



「毎日練習してるからな!」



ガサガサと音をたてながら草をかき分けボールを捜す。

私は投げたり打ったりするのは駄目だけどボールを捜すのだけは得意だ。



『あったよー!』



ボールを持った手で武くんに手を振ると武くんは「やっぱボール見つけんの上手いなー。」とニコニコと笑いながら手を振り返してくれた。



トタトタと走りながら武くんの元へ行く。その時、武くんの後ろにサンサンと光る太陽があるのに気が付いた。

太陽の前にいる武くんはキラキラと輝いていて凄く眩しかった。








『武くん。』



「どしたー?」



『武くんの笑顔ってさ、温かくてキラキラ輝いてるよね!』



「……そうか?」



武くんは少し頬を染めて首を傾げる。
(可愛い。)



『うん!太陽みたい!』



「ハハハッあんがとな。」



はにかんで笑う武くんに私の胸はドキドキした。



この幸せがずっとずっと続いたら良いな。



儚い願いを胸に潜めた。でも、その願いはあっさりと打ち破られた。





『え…?』



「離婚するの。お父さんとお母さん。」



『離婚…?』



「そうよ。ちゃんはお母さんとお婆ちゃんたちの所に行きましょう。」



『何で…。お父さんとお母さん仲が良かったんじゃないの?仲が良いから喧嘩をしてたんじゃないの?』



目からボロボロと涙が溢れる。胸が苦しい。



「ごめんねちゃん。ごめんね…。」



『ヤダ…。武くんと離れたくない。ヤダ、ヤダヤダヤダヤダ!!!』



ちゃん…。」



『ヤダヤダヤダヤダヤダ―――――!!!!』







私はお母さんと一緒に並盛から離れ、田舎に住む祖母の所へ行くことになった。



武くんには引っ越すことは言わなかった。いや、言えなかった。

でも何も残さずに去るのは心苦しかったから、私は最初の最後の手紙を武くんのポストに入れた。



“武くん、さようなら。ずっとずっと好きでした。”



そう書いた手紙の文章は成り立っていない気がしたが、そんなことはどうでも良かった。この手紙が私にとって精一杯の思いだ。



『さよなら、武くん。』



私は武くんに恋をしていました。でも、それはもう叶いません。



さよなら武くん。さよなら私の初恋。





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並盛を去って、何ヵ月か過ぎた。そして私は中学一年生になった。



『武くんも、同じ中学一年生なんだよね…。』



武くんの制服姿、見たかったな。



相変わらず私は武くんのことを考えていた。武くんの声、武くんの笑顔、武くんの暖かさ。



『なに考えてんだろ、私…。』



未練有りまくり、と罪悪感に浸かりながらも私は武くんを忘れられなかった。



『ただいまー!』



引き戸を開けて家に入る。



「お帰りなさい。手紙、届いてるよ。」



『手紙?』



机の上に置いてある手紙を手に取る。京子ちゃんかな?花ちゃんかな?



『んーと…。』



“山本武”



へ……?



『う、そ…。』



急いで手紙の封を開けて中身を見る。そこには一枚の紙にたった二行しか書かれていなかった。



“今から会いに行く。オレも大好きだ。”



『え、え?』



会いに行く?オレも大好き?



『武くん…!』









気が付けば、私は走り出していた。どこに行こうとしているのか、分からないけど何処かへ向かっていた。



『武くん…!武くん武くん武くん武くん!!』



視界は涙でぐちゃぐちゃだった。でも走った。走った走った走った。



『武くん…!』





!」



いた。



まだ視界がボヤけてる。でも、涙を何回も何回も拭いても溢れて視界が戻らない。



「また、泣いてんのかよ。」



『……っ…武くんのせいだもん…!』



「ハハハッオレのせいかよ。」



はにかんだ笑いを見せると武くんは両手を大きく広げた。



『………武。』





私の幸せは、ここにありました。











(武の胸に飛び込むまであと3、2、1、0!)







緑星あき様に捧げます。






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李愛さんから相互記念にリボーンの山本夢を頂きました!

素敵な夢、そして相互ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!