・ 5話 : 紳士の真姿 ・・
「………………」
は目を覚ます。
木の下で、幹にもたれかかって少しの間寝ていたのだ。
周りを見ると、見慣れない自然の景色。
そう、とギンタは数時間前、教室に現れた門に入って異世界に来た。
は自分の指、服にいつの間にかついていたアクセサリーを見る。
それは「ARM」といって、
武器になったり、ガーディアンを召喚したりできる、この世界の不思議なアクセサリーだ。
あの時、自分はどうして発動できたんだ、とが考えていると、
「うお―――っ。 すっげ――っカッコイイ!!! 見た事もねえ虫だ――――っ!!!」
後ろからギンタの声がする。
「見て見てー!」
振り向けば、ギンタがその虫を手持ってに見せた。
テントウムシの羽を持ったクワガタのような虫。
「僕たちから見ると、奇妙な虫だな」
「他にも…って、いつの間に……体操服に?」
立ち上がったの姿を見て聞く。
「ああ、寝る前に木の陰で着替えた。 こっちの方が動きやすいしね。
体操服の袋が机のかける部分から落ちていて、
かけようと思ったら、急に教室が暗くなったからそのまま背負ってきたんだ」
制服は体操服と入れ替えで袋の中だ。
「制服のままでもよかったのに…」
ボソっとつぶやいたギンタだったが、には聞こえたらしい。
何?、とニコニコ笑顔を返された。
「いや、なんでもないなんでもない!」
ヒョウ…と風が吹く。
「風が気持ちいいな」
「おう。 お前もずっと洞窟にいたから気持ちいいだろ? バッボ!」
笑顔でバッボの方を見ると…ぴょーんぴょーんと再び逃走中のバッボが見えた。
「ま――た逃げようとしてんのか――――――っ!」
ギンタが、バッボとハンマー部分を繋ぐ鎖を引っ張ると、
鎖がピンと張ったため、バッボは言葉では表せない言葉を叫び、止まった。
バッボもARMの1つ。 とてもレアなARMと言われている。
見た目はケンダマ。 しかも…しゃべる。
「ぬ…ぐ…キサマ~~~~~~~」
バッボは怒りでプルプルと震えている。
「子どものクセに紳士になんたる態度!!
だいたいワシが逃げる? 無礼な!! 行きたいところへ行くだけじゃあ!!」
「どこ行くんだよ。」
ギンタの手の上で怒鳴るバッボに、ギンタは冷静につっこむ。
「わからん!!」
「…………”流浪の紳士”ということか?」
「そうそう、そんな感じじゃ!」
バッボは、に”紳士”と言われたことに少しだけ機嫌をよくした。
「……お前達、名は何と申す?」
歩き続けて現在森の中。
つるが巻きついている木が生えていたり、サルのようなネズミのようなよくわからない生物がいたり。
一見、元の世界の森と似ているが、少し違う。
「ギンタ!!」
「だ。」
「フン! コッケイな名前よのうっ。 ところで………」
そう言って、バッボは立ち止まる。 また機嫌が悪いらしい。
2人と1つは泉の近くに来ていた。
「放さんか。 ワシは独りでどこかへ行く」
自分と鎖で繋がっているハンマー部分をずっと持っているギンタに向かって言う。
やっぱり不機嫌そうだ。
「放さねえ! オレ達も一緒にどっか行く!
こっちの世界じゃどこに行けば何があるとか知らねーしさ!
誰かこの世界を知っている人と一緒の方が心強いし楽しい!」
「そういやお前達さっきも――――― 『違う世界から来た』とか言っておったの」
バッボはギンタの言っていることが疑わしく、さらに不機嫌な顔になる。
「うん。 さっき来たばっかりだ! でも――― 不思議な…妙になつかしい気分っていうのかな。
オレは自分の世界でこういう世界の夢を何度も見てきた。 その世界でいろいろな冒険をしてきた!
夢で何度も練習してきた事を今、本番開始!!って気分!」
ギンタの頭の中で、今まで見てきた夢が回想される。
「さっきのドロシーを助けるためのあの巨人との戦いだって…あんまり怖くなかったんだぜ!!
これだこれ! きたきた!!ってカンジ!!
すっげ―― ワクワクしてて楽しい!!! これが夢じゃなきゃ最高だ!!!」
そう笑顔で楽しそうに語るギンタに、は同意し微笑みながらうなずいている。
バッボはしばらく丸い目でギンタを見つめていた。
「フ…夢ではあるまい…… ワシはそれを証明する事ができる」
バッボはダンディな顔をする。
「えっ…」
ギンタが期待してバッボを見ると、いきなりバッボが体当たりをしてきた。
「うほほほ!! ワシは群れぬっ。 独りの似合う紳士だからなっ。
夢は寝て見るがよい!!! さらばじゃギンタ君!!!」
倒れたギンタを見ながら、バッボは池の中に入ったが、
「ぶおっぷゎあ―――っ!!」
まだ出ていた鎖部分を引っ張られ、勢いよく水中から出される。
「僕のこと、わすれてない?」
バッボを水中から連れ戻したのはだった。
「お前そんなにオレといるの嫌かよ―――っ!?」
いつの間にか起きたギンタは、からバッボを取り、バッボの鼻をつかむ。
「紳士のハナをつかむでない馬鹿者!!! イヤじゃ嫌!!! すんごく嫌で全然嫌じゃ!!!」
「バッボ、”全然嫌”って言葉は……(2人……?)」
ギンタとバッボがケンカをしている間、はある気配に気づき、気配のする方を見る。
「何をケンカしているのかなキミ達―――っ?」
その声に、1人と1つはケンカをやめ、声がしたほうを向く。
「もめ事だったら相談にのるぞ! ケンカはいかーん!!」
腕を組んであっはっはっはっはと笑っている、
サングラスをかけたずんぐりした体型のおじさんと、
「モック様とチャップに聞かせてごらんデス!!」
髪を下の方でで2つに結んでいる、袋を持った10歳くらいの女の子がいた。
「あのさ! こいつがさ―――――」
「この甘えん坊に独りじゃ怖いと泣きつかれておるのだ。」
ギンタがバッボを指差して言い出すと、バッボは渋い顔をして言う。
「いつオレが泣いたよケン玉――――っ」
「ワシはバッボじゃ無礼者――――」
「2人とも…」
再びギンタとバッボはケンカを始める。
(わかっておるな? チャップ!!)
(ハイ! モック様!)
(あれはARMだ!!! それも生きたARM!!!)
(はじめて見たデス)
バッボをじーっと見てから2人はヒソヒソと話し合いを始めた。
(まさか…あの人達…)
2人の行動を見て、1つの事態を予測した。
モックがコホン、と咳払いをし、
「え―――――… いいかねキミ達?
どうしても馬の合わない相手というのは存在するのだ!
そういった2人が一度でもこじれるともう仲良しにはなれん!!
一緒にいても不快になっていくだけだとモック様は思う!!」
ギンタとバッボはケンカをやめ、モックを見ている。
「君は本当に甘えん坊で独りじゃ怖いかね?」
スチャ、と歌舞伎のようなポーズを決め、ギンタに聞く。
「んなワケあるか!! バッボがいなくても平気だっ!!」
(ギンタ…ホントは一緒にいたいのに、ああ言われたから意地張ってるな…)
「とてもダンディーなあなたは独りになりたいと?」
両手の親指と人差し指を立て、またスチャ、とバッボの方に向ける。
「う…ウム!! さすがよくわかっておるの!!」
目を輝かせてピョンピョン跳ねるバッボ。
「ならば―――――」
モックの言葉でギンタとバッボはお互いを見る。
「決定だ!」
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・・後書き・
連載更新遅くなってすみません…!
さ、先の話ばかり浮かんできて、話の続きに取り掛かれてないです(滝汗)
まだ1巻終わってない…!
今回は少しだけヒロインのニコニコ笑顔(=黒笑み)出しました。
この子は黒い部分があるのです(笑)
この後も、時々出せるといいなーなんて…
2007 / 11 / 11 UP
2008 / 3 / 28 ほんの少し修正 ・ 2011 / 6 / 5 再度修正