モグ モグ パキッ

モグ …ガプ

大きな三日月の夜空の下、一軒の家の畑で、そんな音が響く。

「き、来たっス母ちゃん! 奴らだ! オイラ、今日こそ…!!」

「およしジャック!! 今度こそ殺されちまう!!」

家の明かりで、中で慌てる影が2つ、窓に映る。
畑からする音を聞いた、家の持ち主達 ――― 少年ジャックとその母だ。

「危ないから母ちゃんはドア閉めて隠れてるっス!」

「ジャック!!」

ジャックはバンッと音をたてて家のドアを開けた。

「い、いい加減にするっスこの怪物ども―――!! オイラん家の畑をこれ以上荒らすと……」

「ギンタ、バッボ! いくら腹が減ってるからって人の家のものを勝手に食べるのは…」

畑の中の”奴ら”に向かってどなったジャックと目が合ったのは―――
畑の野菜を食べる金髪の少年とヒゲを生やした球体、
そしてその金髪少年の腕と、球体についている鎖をひぱって止めようとしている、紺色の髪の少年だった。
いつもの”奴ら”だと思い込んでいたジャックは、目を点にする。

「あ、あんたら…誰っスか?」




「この野菜、すんごく美味い! おばさん、おかわり!!」

「コラ、ギンタ、少しは遠慮と言うものを…すみません、ご馳走になってしまって」

あの後、家に上がらせてもらって、食事まで出してもらってしまっていた二人と一つ。

「ずうずうしいっスよ、それはオイラと母ちゃんが一生けん…」

「人間のお客さんなんていつ以来かねーっ! たんとお食べっ」

文句を言いかけたジャックの背中をびしっと叩きながら、笑顔で言うジャックの母。
手には、畑になっているのと同じ、スイカのような野菜がいくつか入ったボウルを持っている。

「あんたら…誰っスか?」

「ギンタ! 違う世界から来たばっか! よろしく!!」

ギンタはモグモグと野菜を食べ続け、ジャックの質問に答える。

だ。 同じく違う世界から来た。」

一方のは、もう食べ終わっていた。 ギンタが食べ過ぎなだけなのだが。

「それに……」

ジャックは机の上で野菜を食べている球体 ―― バッボをちらっと見る。

「ありがたいマダム! 断りを入れるつもりだったが、ギンタの馬鹿がもう食い始めていてな!」

(あれ…「ARM」っスよね?)

バッボは「ARM」という武器なのに、何故 話すのか、何故 生きているのか、何故 食事ができるのか、
と考えている内に目が回り、頭から煙が出始めてしまったジャックであった。

「おばさん、こいつと二人で暮らしているの?」

「息子のジャックさ! 家で作物を育てて、それを食べたり売ったりで暮らしてるんだよ」

その言葉に、ギンタは食べる手を止める。

「すいません、オレ達金もってない…」

「…………………。」

「いらんいらん! ゆっくり休んでおいき!
 子供が二人増えたみたいでいいねぇ! 明日はスープを作ろうかね!!」

――――腹減ってるか、ギンタ、? 今夜はママ様、実験料理シリーズ! ピザカレー作るよ!

暖かく笑いながら言うジャックの母に、ギンタとは母を思い出す。

「ありがとうございます…」

「ありがとう、おばさん!!」

ギンタは満面の笑顔で礼を言った。

――――母ちゃん(ギンタママ)、元気かな…。

アオオオオォォオォォオン―――!!

「「!!!」」

突然、どこからか狼の遠吠えが響いた。
それを聞いたジャックの顔は険しくなり、ドアを開ける。

「どうした、ジャック?」

「ちっ…まただ! 予告状っス……」

家の外の壁に、血で狼の足跡が押された紙が、2本の釘で打ち付けられていた―――。



再びテーブルに戻り、ジャックが予告状を出した犯人について話し始める。
が、バッボはというと、窓近くの机の上でのんきに鼻ちょうちんを作って寝ている。

「そいつらが現れたのは一年前っス。 ウチの畑の野菜をただ食いされて味をしめられたんっス。
 ”ルーガルーブラザーズ”、人狼の盗賊兄弟!!」

「人狼!? かっこいい!? そいつら話す!?」

”人狼”という言葉に思わず目を輝かせるギンタ。

「ドロボーにかっこいいも悪いも無いっスよ!!
 ウチはオヤジがいないから…大人の男がいないから、貧乏な家から当たり前に盗んでいく卑怯者っス!!」

「ごめん…ジャック…」

「気にしなくていいっス」

「一年か……ずいぶんとなめられておるのだな!
 その間…自らの誇りを胸に戦ったのかな? ジャックとやら!」

いつの間にか起きたバッボがジャックに問う。

「戦おうとしてるっス!! したっス!! でも……」

勇気を出してルーガルーブラザーズの前に出るも、彼らの爪と牙を見ると足が、体が震えて。
いつも何もできずに つったってしまう自分が悔しい。

「それじゃー言われても仕方な…あふっ……何をするこの無… !!」

ギンタの拳とジャックを見る真剣な目が、バッボの言葉を止める。

「仕方ないし、それでいいんだよ。 相手は凶暴な狼!
 野菜はまた作り直せばいいけど… ジャックは取り返しがきかない。
 私のたった一人の肉親だからね」

ジャックの母の顔は、困ったような表情から、笑顔に変わった。

(たった、一人の………)




翌日。 ギンタ、バッボ、、ジャックは畑に出ていた。 ジャックは畑を耕している。

「なあ、ジャック! オレ達に任せてくれよ」

「何をスか?」

「ルーガルー退治!!」

「予告状が来たということは、また来るんだろ?」

「ほぉーっ かっこよいのぉ、ギンタ、!」

「おめーもやるの!」

ガンバレー、と歌ったバッボをギンタはにらむ。
バッボは、なんでー?と明らかに嫌そうな顔をした。

「バッボは紳士(ジェントルマン)じゃないのか? 困っている人は助けるべきだと僕は思うよ」

「ジェ、ジェントルマン…!」

”紳士”。
その言葉を聞いたバッボは目を輝かせ、ついさっきまでのやる気のなさはどこへいったのか、すっかりやる気モードになった。
ジャックは作業の手を止める。

「ありがたいっス…二人はいい奴っスね。 でも結構!!」

ぴょこーんぴょこーんと飛び跳ねていたバッボが地面に音を立てて落ちる。

「自分の力で道を切り開くっス!! オイラは意気地無しを捨てたい!!」

「だって万一の事があったらお前の母ちゃ…」

「よせ、ギンタ! 彼は男になろうとしておるのだ」

「!」 「…」

「今のワシ…どうだった!? ダンディーだった!? 素敵であったか!?」

「「…………………」」

最後のそれが無ければかっこよかった、とは言えないギンタとであった。




三日月が昇り、家の明かりも消され、誰もが眠る夜中。
薄暗い中で、動く人影があった。 ―――ジャックだ。
全員が眠っているか確かめた後、バタン…と彼が静かに家のドアを閉める音がした。

――――その間、自らの誇りを胸に戦ったのか?

昼間にバッボに言われた言葉が頭の中で繰り返される。
彼は畑に立ち、木の棒と くわ を持ち、来たる盗賊に身構える。

「よぉージャック、まーた出てきたんか?」

二本足で立つ2匹の人狼。 ジャックの額に汗が浮かぶ。

「ああー? そんなモンもって、これから畑仕事でも始めるのか?」

「ま・さ・か、やる気じゃあねーよな? 意気地無しジャック!!」

いつものように、彼らの姿と言葉でジャックの足は震え………いや、震えていなかった。
しかも真っ直ぐに彼らを睨んでいる。

「い、いい加減にするっス!! 家の畑をこれ以上荒らすと…」

「出た出た! この台詞! これ以上荒らすと…何だぁ?!」

「ワインとチーズもくれるのか?」


「ぶっとばす!」


次々と発せられる人狼の言葉に怯むことなく。
ジャックは棒を右手に、人狼目がけて突進した。



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・・後書き・
やっと1人仲間が出てきました! やっと、やっと…!(遅
前の更新から9ヶ月。 原作1巻はあと3話。
始めて2年ちょっと、いつになったら先に進めるのか…先が見えな…orz

2009 / 1 / 6 UP